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金融市場で「いちばん退屈なもの」が、ブロックチェーン上の本当の主役になった

米国債とマネー・マーケット・ファンド——いちばん地味で、いちばん安全で、誰もワクワクしない資産。それが、この業界の歴史でいちばん速く伸びた「本物をトークン化する」最初の波になりました。しかも手がけたのは新顔の crypto 勢ではなく、世界最大の資産運用会社 BlackRock と、創業からまもなく80年になる老舗 Franklin Templeton です。この記事では、なぜ「現金と国債」がいちばん簡単に、いちばん割に合う形で、何より先にトークン化できたのか——そして $1億から $150億超へと、たった2年で膨らんだのはどうしてかを読み解きます。

分野 Digital Finance レベル 個別トピック インフラ層(infrastructure) 読む時間 約12分
無骨な紙の国債と、古めかしいファンドの台帳が、利息を小さなしずくとして絶え間なく払い続ける、つるりと丸いデジタルコインへと少しずつ姿を変えていく
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地味なものが、誰より先に。 マネー・マーケット・ファンドと国債——いちばん安全で退屈な資産——が、本格的にブロックチェーンへ移された最初のものでした。姿を変えやすく、利息をすぐに払えるからです。

01これは何?

金融の世界でいちばんありふれたものを思い浮かべてみてください:マネー・マーケット・ファンド(money-market fund)です。集めたお金で 米国の短期国債(T-bills)を買い、保有者に利息を払う——ファンドや企業が何十年も使ってきた、退屈きわまりない「現金の置き場所」です。この node は、そんなファンドを ブロックチェーン上のトークンに「包む」話。トークン1単位が、ファンドの持ち分1単位を一対一で表します。

この長い名前の核心は 「Asset Managers」という言葉です——この動きを引っぱっているのは crypto スタートアップではなく、本物の資産運用会社。自分たちがすでに運用しているファンドを、トークン版として出しているのです。先頭を切ったのが BlackRock(ファンド名 BUIDL)と Franklin Templeton(ファンド名 BENJI)。続いて Ondo Finance のような crypto 生まれのプレーヤーや、Securitize のような裏方プラットフォームが入ってきました。

知っておきたい用語
マネー・マーケット・ファンド · 国債トークン · Tokenized Treasury

マネー・マーケット・ファンド(money-market fund) = 短期の安全資産、とくに国債に投資するファンド。価値を保ちつつ、利息を安定して払うことを目指す · Tokenized Treasury = そんな国債ファンドをブロックチェーン上でトークンとして発行し、24時間いつでも移転・保有・売買でき、利息をコードで払えるようにしたもの——トークンの裏では本物の国債を持ち続けており、まがいものではありません。

メガトレンドの地図のなかで、この node は大トレンド Digital Finance & Tokenization にある Real-World Asset Tokenization(RWA)の、いちばん深いところにある末端の葉です。隣の兄弟が 株式・証券をトークン化するレール(株や ETF をチェーンに乗せる)だとすれば——この node は 「現金と国債」の側。そして、こちらのほうがずっと先を走っています。なぜなら、はっきり簡単で割に合うからです。

02なぜ重要か——RWA の最初の波

「tokenize(トークン化)」が語られる資産はいろいろあります——不動産、金、アート、未公開株。そのなかで、なぜ 現金と国債 が、最初に本当に実現して、いちばん勢いよく伸びたのでしょう?答えは3つ。そしてこの3つが、退屈なはずのこれを主役に変えたんです。

ひとつ——もともと流動性があり、価格もはっきりしている。米国債は世界でいちばん売買されている資産で、その時価は一秒ごとに明確です。だからトークン化しても、買い手を新たに「呼び出す」必要がない。もともと滑らかなものを、もっと滑らかにするだけ · ふたつ——利回り(yield)がある。crypto の世界には、利息を生まない「じっとした」stablecoin しかなかった。国債トークンは、みんなが探していた「利息を生む現金」です · みっつ——もともと stablecoin の隣にある。デジタルドルとデジタル国債はセットの存在なので、そのまま積み上げられます。

結果は驚くべき成長でした。米国債のトークン市場 は、2024年3月に BlackRock が BUIDL を立ち上げたときの規模 約 $1億 のたった一つのファンドから、2026年半ばには約 $150億 へと跳ね上がりました——2年で100倍超。そしてこれは、トークン化された実物資産(stablecoin を除く)全体の価値の 70%超 を占めます。

米国債のトークン版——2年で100倍超に
チェーン上の合計額(10億ドル)— RWA.xyz
出典: RWA.xyz、FinanceFeeds、crypto.news(tokenized treasuries の成長まとめ 2024–2026)
ブロックチェーン上の実物資産(stablecoin を除く)の価値のうち、〜70%超を占めるのが、国債とマネー・マーケット・ファンドのトークン版です——いちばん安全で「退屈」な資産が、RWA で最初に実現し、最大になった。

数字よりも大事なのは、誰が手がけているかです。BlackRock や Franklin Templeton クラスの資産運用会社が自ら動いた——スタートアップだけではない——ということは、この話が「crypto 勢の実験」から「金融の主流商品」へと移ったということ。だからこそ、この小さな node が、TradFi とブロックチェーンが本当に出会う最初の場所になっているんです。

03どう動くのか(本物のファンド → トークン)

大事な問いは、国債トークンはまがいものではない——では本物の国債とどうつながっているのか?です。「本物のファンド」から「チェーン上で自分から利息を払うトークン」へ、その道のりを一歩ずつたどってみましょう。

国債ファンドをブロックチェーン上のトークンに変える仕組み ファンドはカストディ口座で本物の国債を保有し、トークン発行者が持ち分と一対一でトークンをつくる。トークンはブロックチェーン上にあり、24時間いつでも移動でき、コードを通じて自動で利息を払う 本物の国債から、チェーン上で自分から利息を払うトークンへ 1 本物のファンド カストディ口座で T-bills を保有 トークンを 1:1 で発行 2 ブロックチェーン上のトークン 1トークン = 持ち分1単位 3 取引/決済 24/7 移転・受け渡しが数秒で完了、T+1 を待たない チェーン上で利息を払う 利息が保有者のウォレットへコードに沿って自分で流れ込む すぐに担保にできる DeFi で担保に置く/プログラムで取引できる 本物の国債から生まれた利息が、チェーン上の保有者へ流れ戻る
本物のファンド → トークン。 本物の国債はカストディ口座でそのまま保管され、トークンは一対一の「デジタル証明書」にすぎません。それが速く動き、自分で利息を払い、さらに積み上げられるのです。

金庫のなかの紙の国債と違うのは、「プログラム可能(programmable)」なこと。BlackRock の国債トークンは、毎日自動で新しいトークンとして利息を保有者のウォレットに払い込み、すでにチェーン上の取引で 担保 として使われ始めています——紙の国債にはできない芸当です。さらに大事なのが、受け渡しが 即時決済であること:お金(stablecoin)と国債トークンが、ひとつの取引のなかで同時に持ち主を替える。従来の市場のように、決済を翌日まで待つ必要がありません。

国債のデジタルコインがゆっくり回転し、利息の小さなしずくがコインの縁から下のデジタルウォレットへと絶え間なく流れ落ちていく。チェーン上での自動の利息支払いを表している
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自分で流れる利息。 紙の国債が利息を期ごとに払うのと違い、国債トークンは、利息が保有者のウォレットへコードに沿って自分で流れ込むようにプログラムされています。
知っておきたい用語
T+1 と即時決済(atomic settlement)の違い

従来の国債・株式市場では、売買すると、お金と資産が実際に「決済」されるのは翌営業日(T+1)。その間はリスクがあり、担保も置く必要があります · ブロックチェーン上では、お金と国債トークンの受け渡しが ひとつの取引のなかで同時に起き、数秒で終わる——カウンターパーティ・リスクと、待っている間に寝かせるお金を減らせ、しかも市場の取引時間外でもできます。

04Digital Finance のどこにいるのか

国債トークンファンドは、ひとりでは働きません。Digital Finance & Tokenization ファミリーの兄弟たちと組み合わさって、はじめて意味を持ちます。

  • つねに Stablecoin とセット——「現金の脚」です: 国債トークンを買うとき、あなたは何で払う?答えは stablecoin(デジタルドル)で、ひとつの取引のなかで同時に受け渡されます。ざっくり言うと stablecoin = 利息を生まないチェーン上の現金 · 国債トークン = 利息を生むチェーン上の現金。だからこの2つはぴったりのペアで、多くの人は利息を取るために、ただの stablecoin ではなく国債トークンを持ちます
  • 兄弟の 株式・証券トークンのレール とは違う: あちらは 株式/ETF をデジタルの双子にするもので、証券法の縛りがずっと重く、成長も遅い · 一方この node は ファンド/国債 で、もともと流動性と価値がはっきりしているぶん簡単です——これこそ、国債側がはるかに先を走っている理由
  • Cloud & Digital InfrastructureCybersecurity & Digital Trust に頼る: すべてはパブリックなブロックチェーンとクラウドサービスの上で動くので、スマートコントラクトの安全性と資産の保管(custody)が欠かせない土台になります——この層でつまずけば、何十億ドルもの価値がたちまち揺らぐ
覚えやすい言い方はこうです——stablecoin は「お金」をチェーンに置く → 国債トークンは「利回りを生む資産」をチェーンに置く。この2つが同じレールに乗れば、現金と、利息を生む現金の置き場所の両方が、ブロックチェーン上で同時にそろう。だからこそ国債トークンファンドは、stablecoin が定着したあとの「自然な次の一歩」と見られているのです。

05いま、どこまで来たのか

いまの状態はひとことで言えば 「本気で競争中、しかも複数の本物がいる」。もう実験ではありません。2026年半ば、米国債のトークン市場はおよそ $150億 で、70を超える商品に分かれています。面白いのは 誰も独占していないこと——上位3〜4社の規模がとても近いのです。

チャンピオンは計測日によって入れ替わります:Circle USYC(Circle が買収した Hashnote のファンド)が約$29億 · BlackRock BUIDL が約$25〜26億 · Ondo USDY が約$21億 · Franklin Templeton BENJI が約$20〜25億。上位4社は同じ水準にあると言ってよく、BUIDL が独走していた年初とは様変わりです。

国債トークンファンドのトップ勢——大接戦
運用資産残高(百万ドル)— 2026年半ば、概算
出典: RWA.xyz(2026年5〜6月の概算値)— 順位は計測日によって入れ替わる

この時期の見どころは3つ。ひとつ——BlackRock が複数のブロックチェーンに展開(Ethereum、Arbitrum、Avalanche、Polygon、Solana など)し、BUIDL は開始以来すでに $1億 超の利息を払い終えました · ふたつ——大きな販路との提携。たとえば BUIDL は Binance とつながり、担保としての使われ方を広げています · みっつ——crypto 系の挑戦者グループ。Ondo は米国外の個人投資家がアクセスできること(KYC 経由)に力を入れる一方、USYC のような機関向けファンドは大口投資家に限定されています(最低 $100,000)。

ほぼすべてのファンドの裏側にいるのが Securitize というプラットフォーム。トークンを発行・管理する「請負人」(transfer agent)として、BlackRock、Apollo ほか多数を支えています——静かに働く、欠かせないインフラです。

この分野の主役たち
注記
プレーヤーは役割と市場シェアで並べています——主役級の多くがいまも非公開企業だったり、巨大企業のなかの一事業だったりするので、そのまま買える銘柄リストではありません · 投資助言ではありません
BlackRockBLK · US
米国 · 市場リーダー
世界最大の資産運用会社。国債トークンファンド BUIDL(Securitize を通じて発行、2024年3月開始)は道を切り開いた存在で、いまも約$25〜26億の上位ファンド。利息は累計$1億超を払い終えた——BlackRock の参戦こそ、Wall Street が本気だというサインです。
core · 市場リーダー
米国 · 先駆者
マネー・マーケット・ファンドのトークン化を、BlackRock よりも先に切り開いた老舗の運用会社。ファンド BENJI/FOBXX(〜$20億)は、パブリックチェーン上の正真正銘の 1940-Act ファンドで、伝統的な資産運用会社がこれを本当にやれることを証明しました(上場名は Franklin Resources)。
core · 先駆者
Circle (USYC)CRCL · US
米国 · 機関向けのトップ
stablecoin USDC の発行体。2025年初に Hashnote を買収し、マネー・マーケット・ファンドのトークン版 USYC を手に入れた(〜$29億、時期によっては首位)。大口投資家に限定され、最低$100,000——「チェーン上の現金」と「チェーン上の国債」がセットのビジネスであることを映しています。
core · 機関向け
Ondo FinanceONDO · 非公開
米国 · crypto 系の挑戦者
crypto の世界から直接生まれたプレーヤー。国債トークン OUSGUSDY を発行(USDY は〜$21億)。米国外の個人投資家が KYC 経由でアクセスできることに力を入れ、自らを RWA の市場インフラとして築こうとしています。
core · 挑戦者
Securitize非公開 · 米国
米国 · レールの作り手
実物資産トークン化の世界的リーダー。BlackRock(BUIDL)、Apollo ほか多数のためにトークンを発行・管理する裏方の transfer agent——トークンファンドを出そうとする者がたいてい通る「請負人」です(非公開企業)。
core · トークン発行者
WisdomTreeWT · US
米国 · 資産運用会社
ETF の運用会社で、自社アプリを通じてデジタルのマネー・マーケット・ファンド WTGXX で参戦——トークンを投資家への新しい入り口として使う、中堅運用会社の好例です。
secondary · 資産運用会社

06これからの展開

第一の方向は 国債トークンがチェーン上の「標準的な担保」になること。いま人々は利息を取るために持っていますが、次の一歩は、利息を生まない stablecoin の代わりに、チェーン上の取引や貸し借りの担保として置くこと。これが実現すれば、国債トークンはブロックチェーン金融における「利息を生む現金」の本命になります——ほかの商品がその上に積み上がる、土台の層です。

第二の方向は 銀行や大手機関が本格参入すること。JPMorgan、BNY、ほかの資産運用会社が自前のトークン商品を出し始めれば、巨額の機関マネーが流れ込み、この市場を数年で「数十億ドル」から「数千億ドル」へと変えうる。世界中のファンドや企業がマネー市場に寝かせている現金だけでも、もともと途方もない規模だからです。

「一つのファンド」から、複数が競い合う市場へ
チェーン上の国債トークン商品の数(概算)
出典: RWA.xyz(tokenized treasury 商品数 2024–2026)
一枚の国債デジタルコインが、しっかりとした土台として置かれ、その上にほかの金融商品の構造が、頑丈な柱のように積み重なって伸びていく。国債トークンがシステムの標準的な担保になることを表している
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現金の置き場所から、土台へ。 次の一歩は、国債トークンが「標準的な担保」になり、チェーン上のほかの金融商品がその上に積み上がっていくことです。

第三の方向は 国債から、より複雑な資産への広がり。パイプとレール、そして信頼が、いちばん簡単なもの(国債)で築かれたあと、同じ資産運用会社が未公開クレジット(private credit)やほかの種類のファンドへと動き始めます——国債トークンファンドは、RWA 全体があとに続くための 「橋頭堡」 なのです。

07課題とリスク

RWA のなかで「いちばん安全」な側とはいえ、はっきり理解しておくべきリスクがあります。

第一のリスクは ルールとアクセス。今日の国債トークンの多くは まだ一般の個人が自由に買えるわけではありません——BUIDL や USYC のような機関向けファンドは、条件を満たした投資家に限定されています(最低 $100,000 というファンドもある)。これは厳しい規制の下にある証券だからです。だから、各国の法律の明確さが、市場をどこまで広く開けるかを決めることになります。

第二のリスクは 金利。国債トークンの魅力は、短期国債の利息から来る年4〜5%ほどの利回りですが、もし中央銀行が大きく利下げすれば、利回りも縮み、ただの stablecoin を持つのと比べた魅力も下がります——この資産グループの需要は、金利のサイクルと直結しているのです。

第三のリスクは 仲介者と技術。トークンがどれだけ優れていても、裏にある「本物」しだいです。発行体やカストディアン(custodian)に問題が起きれば、トークンも揺らぐ。加えてスマートコントラクトがハッキングされるリスク、そして Securitize という一つのプラットフォームが市場の多くの資産の裏側にいること——この集中こそ、目を離せない弱点です。

投資家への結びの一行——国債トークンファンドは RWA の「橋頭堡」です。もともと安全で流動性のあるものだから、トークン化の効果がすぐ出る。鍵は3つ:(1) $1億から〜$150億へと2年で伸びたが、本物のマネー市場の規模の1%にも満たない=伸びしろはまだ広い · (2) 長期の勝者は、いま AUM がいちばん大きい人ではなく、そのトークンがシステムの「標準的な担保」として使われる人かもしれない · (3) 需要は金利とルールに縛られる——この2つの変数が、どこまで広く、どれだけ速く伸びるかを決めます。

短くまとめると:この node は、「いちばん地味で安全な」資産——現金と国債——を、より速く、いつでも開いていて、自分で利息を払えるデジタルのレールに乗せる話です。これが、本当に実現した RWA の最初の波になったのは、これらの資産がもともと流動性と明確な価値を持っていたから。そして BlackRock と Franklin Templeton が自ら動いたことで、もう crypto 勢の実験ではなく、Wall Street が本物を一歩ずつチェーンに移している、ということなのです。

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