メガトレンド · Advanced Air Mobility
どの空飛ぶタクシーが生き残るかを当てなくていい——全部に部品を売ればいい
「空のTesla」は誰になるのか——Joby? Archer? みんなが言い争っています。でも、まったく当てる必要のない人たちがいます。誰が勝とうが、モーターも、バッテリーも、フライト制御システムも、複合材も、結局どの機体にも売れるからです。これが空飛ぶタクシー時代の「ジョブズ&ショベル(つるはしを売る側)」の層——リスクは低いけれど、まだほとんど本物の売上がない市場とつながっている、という側面もあります。
01これは何?
ゴールドラッシュの時代を思い出してみてください。本当に儲けたのは、金を掘る人みんなではありませんでした——破産した採掘者は何千人もいた。でも、採掘者につるはしを、ショベルを、ジーンズを売った人たちは、誰が金を当てようが当てまいが、お金を手にしました。この node は、電動の空飛ぶタクシー時代の「つるはしを売る側」です。
これはメガトレンド Advanced Air Mobility (eVTOL) のサブテーマです——ただし、空飛ぶタクシーの「機体そのもの」を作る会社(Joby や Archer のような)ではなく、この node は サプライヤーの層。つまり、重要な部品を作る会社のことです——電動モーター、航空基準をクリアしたバッテリー、フライト制御システム(avionics)、軽量の複合材、そしてアクチュエータ——それを 機体を作るすべてのメーカー に売ります。
eVTOL = electric Vertical Take-Off and Landing。エンジンではなく複数の電動モーターで飛ぶ、ヘリコプターのように垂直に離着陸できる電動航空機のこと · picks-and-shovels(つるはしを売る) = 倒れるかもしれない特定の一社に賭けるのではなく、業界全体に「機材を売る側」を選んで買う投資戦略
このアイデアの核心は、node の定義そのものにあります——「どの機体にも売り込まれる部品」。機体が各社で見た目が違っても(傾けたプロペラの機種もあれば、翼+プロペラの機種もある)、それは関係ありません——中身はどれも同じ基本部品のセットを必要とするからです。だからその部品を売る人は、誰が勝つかを当てる必要がないんです。
02なぜ「つるはしを売る」のが金を掘るより面白いのか
理由その一は リスクが分散すること。Joby や Archer のような空飛ぶタクシーのメーカー(OEM)は、まだ商業的な売上がほとんどなく、航空当局から旅客を乗せて飛ぶ認可が下りる日を待ちながら、大量の現金を燃やしています。賭ける相手を間違えれば、お金はまるごと消えかねない。でも、あなたが Joby にも Archer にも、ほかの十社にも モーター を売る側なら、誰が生き残るかなんて気にしなくていいんです。
理由その二は つるはしを売る側の多くが、すでに利益を出している会社だということ。この業界の本当のサプライヤーは、もろいスタートアップではなく、何十年も本業で稼いできた航空の巨人たちです——Honeywell の aerospace 事業の売上は年に約 150億ドル(2024年)。空飛ぶタクシーの事業は、すでに実をつけている木に伸びた小さな「新しい枝」にすぎません。生き残るために必死な OEM とは違うんです。
そして最終市場も、十分に大きくて見合います。Morgan Stanley は、eVTOL 市場が 2030年に約150億ドル に達し、その後 2040年までに兆ドル規模 へ跳ね上がると見ています(遠い夢の数字なので、慎重に見るべきです)。この市場に流れ込むドルは、いつも一部がつるはしを売る側の部品代になります。
03ふたを開けて見る:空飛ぶタクシーは何でできている?
この node をいちばんよく理解する方法は、空飛ぶタクシーをひとつひとつのパーツにばらして、誰がどのパーツを売っているか を見ることです。なぜなら、パーツごとに別々のサプライヤー集団のビジネスだからです。パソコンのふたを開けて中に何があるかをのぞくのと同じ——ひとつひとつのパーツが、それを売る会社なのです。
ひとつずつ見ていきましょう:
- 電動モーター & インバーター: 駆動の心臓。Safran(フランス)は EASA の認証を取得した ENGINeUS モーターを持ち、複数のメーカーに採用されています。BETA Technologies は、最大 10年で10億ドル になりうる Eve Air Mobility へのモーター供給契約を勝ち取ったばかり
- バッテリーパック: 航続距離の生死を決める要。Amprius はエネルギー密度 450 Wh/kg の silicon-anode セルを発表——一般的なリチウム黒鉛バッテリーより約80%高い。空飛ぶタクシーは大きな電力が要るのに重くできないので、これがとても重要です
- フライト制御システム(avionics + fly-by-wire): 機体の頭脳。Honeywell は小型の fly-by-wire システムと Anthem フライトデッキを、Vertical Aerospace など複数のメーカーに売っています
- 軽量の複合材フレーム: 1グラムにも意味がある。Hexcel は、Archer が実機を作るための高性能カーボンファイバーの供給先に選ばれました
- アクチュエータ: プロペラと制御面を動かす筋肉。Archer はフライト制御のアクチュエーション技術を Honeywell に任せています
Wh/kg = 1キログラムあたりに蓄えられるエネルギー量。高いほど、重いバッテリーを背負わずに遠くまで飛べます——これは業界全体の空飛ぶタクシーにとっての物理的なボトルネックです · fly-by-wire = 機体の操縦を、従来の機械式ケーブルではなく電気信号/コンピュータで伝える仕組み——複数のモーターをリアルタイムで連携させる機体では欠かせません
04AAM のエコシステムのどこにいるのか
メガトレンド Advanced Air Mobility の下には5つのグループがいます——うち4つは「機体を作る側」か「インフラを作る側」。そしてこの node は、すべてのグループの 足元 にいる唯一の存在です:全部に部品を供給する、サプライチェーンの層なのです。
- Passenger eVTOL OEMs(旅客の空飛ぶタクシー)へ供給: 最大の顧客——Joby、Archer、Eve はみな、この node からモーター/バッテリー/avionics を買います
- Hybrid-Electric & Regional Aircraft と Cargo & Delivery Drones へ供給: 同じ部品のセットは、電動の地域航空機や配送ドローンにも横展開できます——つるはしを売る側の市場を広げてくれます
- Vertiport & Airspace とつながる: 発着・充電する場所と航空交通のシステム。同時に揃っていなければならない、もうひとつのインフラ層です
AAM メガトレンドの外に目を向けると、この node はほかのトレンドとも深く絡んでいます。これは Electrification & Mobility の応用(モーター/インバーター/バッテリーは EV と同じ技術を、ただ空へ持ち上げただけ)であり、Critical Materials & Supply Chain(リチウム、永久磁石、カーボンファイバー)に頼り、そして「電動」を本当に環境にやさしくするためには Energy Transition & Power Demand のクリーンな電力に頼る必要があります。
面白いのは、昔ながらの Aerospace & Aviation とは「補い合う」関係も「競い合う」関係も両方あること——というのも、サプライヤーの多くは、安全認証や航空材料の専門性を活かして発展してきた、まさに従来の航空の巨人だからです。disrupt される側になるのではなく、彼らは新顔の挑戦者に部品を供給する側になったのです。
05いま、どこまで来たのか
いまの状況(2026年半ば)は、はっきり言っておきましょう:サプライヤー層の売上の多くは、まだ 実機の販売額ではありません。「開発契約」(development contract)と長期の供給契約で、OEM が認証を取って商業生産を始めて初めて実を結ぶもの——それがまだ広くは起きていないのです。
でも、契約のシグナルは形になり始めています。2025年末、Eve Air Mobility は pusher モーターの供給先に BETA Technologies を選びました——10年間で10億ドル になりうる契約で、Eve の約2,800機のバックログを支えます。これは、OEM がサプライヤーをロックしたとき、つるはしを売る側の売上が大きく長い塊で来る、というモデルなのです。
いまメーカー各社は、サプライヤーを盛んに「マッチング」しています——Eve は BETA と Nidec Aerospace の両方のモーターを使い、センサーと航法システムには Honeywell を採用。Archer はカーボンファイバーに Hexcel、アクチュエーションに Honeywell を選びました。Vertical Aerospace は fly-by-wire と Anthem システムに Honeywell を使っています。こうしたマッチングこそ、サプライヤー層の「先行発注」なのです。
06これからの展開
ひとつめの方向は 「認証に連動した解放」。サプライヤー層の本当の売上は、先頭の OEM が認証を取って商業機の引き渡しを始めたときに爆発します——Archer は2026年初めに FAA から Means of Compliance の100%受理を得たばかり。生産ラインが動き始めれば、つるはしを売る側は、開発契約だけでなく、作られる機体一機ごとに発注を受けられるようになります。
ふたつめの方向は 「バッテリーとモーター」での競争。ここが性能(航続距離、ペイロード)をいちばん左右する部品だからです。250から450 Wh/kg へ進むだけで、飛べるルートが一気に変わります。航空基準をクリアした高エネルギーのバッテリー技術を握る者は、強い交渉力を持つことになります。
みっつめの方向は 市場をまたぐこと。同じ部品のセットは、配送ドローン、電動の地域航空機、そして軍用航空にも売り込めます——だからサプライヤーは「旅客の空飛ぶタクシー」というひとつの市場だけに運命を預けずにすみます。これが、最終市場のタイミングをめぐるリスクを和らげてくれます。
07課題とリスク
はっきり言っておきましょう:「つるはしを売る」のは「金を掘る」より低リスクですが、リスクがないわけではありません。
ひとつめの、そしていちばん大きなリスクは まだ売上がほとんどない市場とつながっていること。つるはしを売る側は、どの OEM が生き残るかを当てる必要はないとはいえ、もし 業界全体 の商業飛行が思ったより遅れれば(安全認証の遅れ、高いコスト、乗ることへの不信)、発注は丸ごと先延ばしになります。いまの売上の多くは、まだ実機の販売ではなく開発契約——これは受け入れるべき現実です。
ふたつめのリスクは OEM が「自社でやる」こと(in-housing)。Joby のような大手メーカーは vertical integration の道を選び、モーター、フライトソフト、バッテリーを最初から自前で開発しています。誰もが重要な部品を自社で作るようになれば、つるはしを売る側の市場は縮みます。これまで売れていた部品が、顧客の工場の中へ引き戻されてしまうかもしれません。
みっつめのリスクは 集中。多くの重要部品はプレーヤーが数社しかおらず、大型契約はたいてい一つのサプライヤーを一つの OEM に結びつけます。その OEM のプロジェクトがつまずいたり中止になったりすれば、きれいに見えた契約も一緒に消えます。売上が少数の顧客に集中しているほど、このリスクは目立ちます。